―Princess Pee―                       (小説・白牌滑丘さん)

 ピンポーン。

 少し陽の傾きかけた、夏の終わりのある日。

手入れの行き届いた品の良い薔薇の生垣に囲まれた、少し古い洋館のような家の門の前で彼、響野達也は、いつも通り玄関の呼び鈴を鳴らしていた。

(今さらながらホント、とてつもない大豪邸だな……)

返事がかえってくるまでのしばらくの間、達也は、今自分が訪ねようとしているその洋館の屋根を、改めてしげしげと見上げている。

日本でも有数の製薬会社社長を当主とする水野家は、敷地面積ざっと一万平米。庭にはちょっとした林まであり、本宅となると軽く20からの部屋があるというのだから、日本的基準から言えば、確かにとてつもない大豪邸である。開業医を父に持つ達也の家だって、この辺ではかなりの大邸宅なはずなのだが、この「御屋敷」を前にしてしまうと、その身分の違いに、さすがの達也も、少し気圧される感じがしないでもない。

とはいえ、「医者=顧客」と「製薬会社=売り手」という関係のせいか、その資産力の差にも関わらず、達也の父とこの家の当主とは、昔からわりと対等に近い付き合いができていた。そしてその縁から、達也もまた、この家の美人姉妹とは、わりと仲の良い友達づきあいをしてくることができたのである。

 「あら達也いらっしゃい。今日もメグのこと、よろしく頼むわね」

 軽くアーチを描いた、イギリス風の小洒落れたゲートを開けてこの家の美人姉妹――その姉のほうであるリサが出てきた。薄く茶色がかった髪をポニーテールにまとめ、タンクトップにショートパンツといった軽やかな服装から伸びる小麦色の手足は、スポーツか何かでキリリと引き締められており、いわゆる「お嬢様」とは違う、どこか活発な印象を与えるアクティブ系の美少女である。だがそれだけに、そこだけ一切の拘束から逃れたかのようにたわわに揺れる巨大な胸は、リサ本人はすでに体の動きを止めているにも関わらず、まるでゴムボールのように、上下左右に激しく動き回るのをいつまでも止めようとしない。まるでそこだけ重力の法則が狂ってしまったようだ。

 「あれ? リサだけ一人でお迎えなんて珍しいじゃない。メグちゃんはどうしたの?」

 「なんだか良く分からないけど、『お勉強の準備があるから』って今日は一人でお部屋で待ってるみたい。達也、すまないけど今日は直接、メグの部屋まで行ってくれる?」

 「分かった。じゃあすぐ行ってみるよ」

 内心「やっぱりな」と舌打ちしながら達也は頷いた。

 (そりゃそうだろう。昨日あんなことがあったばかりで、一体どんな顔して会えばいいんだか、本当は俺だって分かんないよ……)

 達也が、この家の美人姉妹の妹のほう――メグ――の家庭教師を始めたのは、ほんの一週間ほど前のことからである。

 達也より一つ年下の15歳。現在ちょうど受験勉強の真っ最中であるメグは、優等生でもある(あくまでそれなりに、というレベルだが)達也に勉強を教えてもらえることがよっぽど嬉しいらしく、毎日達也が家に来るたびに「お兄ちゃん、いらっしゃ〜い♪」とはじけ飛ぶように出てきては、達也の腕を強引に引っ張って自分の部屋まで連れていくのが、毎度のパターンのようになっていた。

 昨日もそんな調子で、勉強だか遊びだか分かんないような雰囲気のまま、なし崩し的に個人教授が始まっていたのだった。

 「だからねメグちゃん、そこのyには上のこの式を代入して……」

 「えっどの式? 字が細かくてよく見えな〜い!」

 これみよがしに顔を近づけ、達也の肘に自分の胸を擦りつけてくるメグ。胸元の大きく開いたサマードレスの絹ごしに、ふくよかな脂肪の感触が伝わってくる。

 (おいまたかよ……)

 あまりに見え見えの誘惑に、さすがに少し辟易としてくる達也。

 いつもこうなのだ。

 メグが達也に対し、なにやら性的な好奇心を抱いているらしいことは初日から気付いていた。

最初は、そりゃ悪い気はしなかった。

そもそもメグは美少女である。

身長は150cmを少し超えたくらいの小柄な体格。顔立ちは中学3年生にしては幼く、大きな瞳と、小学生のようなツインテールの髪型、そして屈託のない明るい性格のおかげで、全身からかもし出される雰囲気たるや、まさに絵に描いたような「妹萌え」キャラそのものである。にもかかわらず、その首から下ときたら……!

「トランジスタグラマー」とは、まさにこういう体型のことをいうのだろう。

中学生にして早くも90cmを超えているらしい(本人申告による)巨乳が、こんな童顔の下で、ユッサユッサと揺れ動いているのである。

「メグは街でも学校でも男子に追いかけられて大変!」というのはリサから聞いた話だが、こんな凶器のような乳房をつけた童顔美少女がすぐ近くにいたのでは、ヤリたい盛りの男子中学生諸君が狂ってしまうのも無理はない。

いや、中学生でなくたって、普通こんな巨乳美少女に言い寄られたら、どんな男だって陥落しないわけにはいかないだろう。達也だってそのあたりのメンタリティは普通の男と変わりない、いやむしろ、平均よりはるかに強烈なくらいなのだ。

だが今回は、そう簡単にこの誘惑に乗るわけにはいかない事情が達也にはあった。

なにしろメグは、同級生であるリサの妹であり、しかもその姉のほうと達也は、現在進行中で肉体関係を持ち続けているのだから。達也から見ても妹のようにしか見えない少女に、いまさら性的に言い寄られたからといって、いまいち本気になれないのは、その趣味のない男子ならばごく普通のことだろう。ましてや達也は、そのリサを含む6人の女性と、同時進行で肉体関係を継続中なのだから。

しかもそのうち、同級生であるリサとマリアを除く4人が達也より年上であることから見ても分かるとおり、どちらかというと達也は年上指向なのである。しかも彼女たち全員、揃いも揃って、巨乳であるメグをもはるかに凌ぐ、見事なまでの爆乳・超乳・魔乳の持ち主ばかりなのだから、いくらメグが中学生にしては、いや成人女性のなかに入れてさえ「とてつもない」レベルの巨乳の持ち主であるといっても、そう簡単に敵う相手ではないのだ。

(さすがにこれ以上、関係を持つ女を増やすのはマズいよな。リサの妹でもあるわけだし……)

そんな分別も手伝って、達也は、メグの誘惑については、ピシャリと無視を決め込むことにしたのである。もちろんメグからすれば、そんな決心が面白かろうはずもない。

(お兄ちゃんったら。今さら何マジメぶってるのかしら。そりゃ確かに、お姉ちゃんやマリアさんに比べたら私の胸は小さいけどさ……)

そんな不満を抱きつつ、それでもメグは、達也と一緒に二人きりの時間を過ごせるのが楽しくてたまらず、勉強の時間は(メグが達也を引き止めるために)いつも予定を大幅にオーバーするのが毎度のこととなっていた。

その日もそんな調子で、それでも一通りの勉強を終え、リサが運んできてくれたクッキーと紅茶で一息入れていた時のことである。

それまで、あんなに楽しそうに達也とたわいもないおしゃべりに興じていたメグの顔から、不意に笑みが消えた。

「……」

なぜか急に押し黙り、ソワソワしだすメグ。椅子に座ったまま、両足を互いに擦りつけるようにモジモジさせている。心なしか顔が赤い。

「? どうしたのメグちゃん?」

急に様子の変わったメグに、不思議そうに尋ねる達也。それには答えず、恥ずかしそうに達也から目をそらすメグ。

ほんの数瞬、奇妙な沈黙の時間が流れる。

と、突然。

「ちょ、ちょっとごめんなさい!」

そう叫んで立ち上がるメグ。

「あ、メグちゃんどうし……」

達也の返事も聞かず、あわててその場を立ち去るメグ。部屋を飛び出し、長い廊下を一目散に駆けてゆく。

(ああっもうメグのバカ! なんでこんなになるまで我慢してたのよ!?)

顔は真っ赤にしながらも心のなかで、そう自分に毒づくメグ。行先はトイレ。そう、なんのことはない。メグは今まで、ずっとトイレを我慢していたのだ。

たとえ自分の誘惑に乗ってくる様子がないとはいえ、今のメグにとって、達也と二人っきりで過ごせるこの時間ほど楽しいものはない。だからその時間を少しでも無駄にするのが惜しいあまり、今の今まで、トイレに行くのさえもずっと我慢し続けていたのだ。

だがそれも限界だった。とうとうこらえ切れなくなり、用件も告げずにいきなり部屋を飛び出してしまったメグ。

(バカみたい。一番恥ずかしい展開じゃんこれって……)

いささかの後悔と羞恥を覚えながらも、それでも足は休まずに走っていく。だが運の悪いことにメグの部屋は、この大豪邸の2階、それも一番隅っこにあったのだった。2階のトイレに行くには屋敷の隅から隅まで走らなければならない。1階中央のトイレなら半分の距離で行ける。迷わず階段を駆け下りるメグ。が、その時の振動が決定打になってしまった。1階のフロアーまで駆け下りたところで、ついにメグの我慢は限界に達してしまった。

(マ、マズイ! 中学生にもなって、こんなところでお漏らしだなんて……!)

思わずあたりを見回すメグ。幸い、思っていたよりもずっと遅い時間になっていたらしい。テラスから見える外はもう真っ暗で、使用人たちの姿も見えない。自分の勉強をしているのか、姉も部屋に閉じこもったまま、出てくる様子はない。

(ええい、もういいや!)

なりふりかまわず、最後の力を振り絞るメグ。テラスから外に飛び出し、靴下姿のまま庭に駆け出す。

真正面に、ツツジが何かの木でできた小さな木立があった。すぐそばで街灯が辺りを照らし出しているのが気になるが、このさい贅沢は言っていられない。

木立の前に立ち、それでも少しは周囲を見回しながら、左右の太腿のあたりからスカートの中に両手を入れるメグ。人目見ただけで即「勝負下着」と分かる、極薄のパンティーがスルリと膝のあたりまでひき下ろされる。ただちにその場にしゃがみこむ。途端に、露わになったメグのなだらかな股間から、噴水のような曲線を描く黄色い液体が、木立の根元に向かい、勢い良く飛び出した。

(フウッ。何年ぶりだろ。外でしゃがんでオシッコだなんて……)

ギリギリ「お漏らし」にならずに済んだことに安心したのか、ついそんな事を考えてしまうメグ。焦っていたのか、しゃがんだ瞬間に大股を広げすぎ、パンティーを引き裂いてしまったことにも気付かない。どうも「誘惑」にこだわるあまり、少し薄すぎる素材を選んでしまったようだ。

単にそこだけ成長が遅れているのだろうか。それともマリアらクリスティ家の女性たちと同じような先天性無毛症なのだろうか。メグの股間にも、なぜか陰毛は一本も生えてはいなかった。鏡餅のように白くツルツルしたその丘の真ん中には、きれいな縦すじが一本、すっと下のほうにのびているだけである。その小さく閉じられた割れ目の奥には、薄いピンク色をした貝の身のようなものが、隠れるように密やかに鎮まっており、外界へは、わずかにその上端の突起の部分をちらりと覗かせているにすぎない。そしてそのすぐ下、やわらかなピンクの肉付きのさらにすぼまった奥底にある小さな穴から迸り出てくる黄色い液体は、街灯の明かりに照らし出されてキラキラと輝き、とても排泄物には見えない、まるで宝石の流れのような美しい曲線を描いて、正面の木立ちの根元に注ぎ込まれていた。

(フフッ、なんだか幼稚園児みたい……)

自分の、まさに子供そのものである無毛の股間を眺めつつ、また自分が、今どんな恥ずかしい格好で放尿行為を行っているのかを想像しつつ、メグは、まるで自分が遠足のとき、途中でオシッコを我慢できなくなり、つい行列を離れ、道端の草むらにしゃがみ込んで用を足してしまう幼稚園の女児になったような気がして、なんとなく可笑しくなった。

そう、このとき彼女は、完全に油断していたのだ。

背後の人の気配にも気付かぬくらいに。

「メ、メグちゃん何してるの!?」

突然の大声に、心臓が飛び跳ねそうになるメグ。

「え? お兄ちゃん!? どうして!?」

まだ半分も出し終えていないというのに、思わずその場に立ち上がってしまうメグ。黄色い飛沫が股の間を飛び跳ね、内股をどんどん濡らしていくのもまるで気付いていない。

後ろを振り返る。そこには、愕然とした表情で立ちすくむ達也の姿があった。

「ち、ちがうのこれは……キャッ!」

放尿中なのもかまわず、思わず達也に駆け寄ろうとするメグ。が、運の悪いことは重なるものである。彼女自身が放った液体で濡れた地面に靴下が滑り、その場でメグは、思い切りスッ転んでしまったのだ。しかもなお悪いことに、薄すぎた下着は、先ほど破れてしまったばかりである。

達也に向かい、完璧な大開脚状態で尻餅をついてしまうメグ。ピカピカに磨き上げられた、白い陶磁器のような無毛の丘が、明るい街灯の下にまともにさらけ出される。その真ん中を縦に走るクレバスは、今は大きく開かれ、薄いピンク色をした貝の身が、パックリと外に飛び出してしまっている。その真ん中の、さらに奥まった辺りからなおも勢い良く吹き出し続ける液体は、噴出口が上向きになったことにより、見事な放物線を空中に描いてしまっている。

「イヤ!……見ないで! 見ないで!……」

思わず顔を両手で覆ってしまうメグ。だが達也は、街灯に照らし出されたメグの股間、その輝くような無毛の丘と黄色い噴水のページェントから、いつまでも目を離せないでいた……。

 (結局全てのオシッコを出し終えるまで、じっくり眺めちゃったんだよなァ俺。あの後メグちゃんはなんにも話してくれなかったし、俺は俺で一言「ゴメン」と言ったきり、さっさと逃げ帰ってきちゃったんだから、こりゃメグちゃんに嫌われてしまったとしてもしょうがないよな……けどなあ、あんないきなり、行き先も告げずに部屋を飛び出されたんじゃ、こっちだってびっくりしちゃうよ。あれじゃあ、あんなふうに何も想像できずに後を追いかけてしまうのも、無理ないじゃないか……だけどメグちゃん、なんでトイレにも行かずにあんな所で?)

 そんな事をあれこれ考えながらメグの部屋の前までやってきた達也。意を決してドアをノックする。中から「どうぞ」という小さな声。

 扉を開ける。少し顔を赤らめたメグが、けれど勉強の準備はしっかりと整えた状態で机の前に座っていた。

 「……それじゃさっそくだけど始めようか」

 「……ウン」

 言葉少なに、それでも本来の個人授業はきちんと始める二人。いつもと違い、淡々と講義は進行する。

 「ホラ、この式?を上の式?のxに代入すれば……」

 ふとメグの顔を見る達也。少し頬を赤らめ、それでも目は真剣にノートを見つめている。いつものように、達也を誘惑してくる様子はない。

 (『お互い、なかったことにしましょう』っていう意思表示なのかなァこれは。それにしても凄かったなあ、昨日のメグちゃんの痴態ときたら……ハッ、いかんいかん!)

 思わず昨日の光景を思い出しそうになり、あわてて頭を振る達也。だが悲しいかな、あれほどまでに強烈な光景を脳裏から消し去ることなど、健常な男にできるはずもない。ましてや、その「衝撃のシーン」の当事者がすぐ隣にいるとあっては……。

 ついまた、メグに顔を向けてしまう達也。すると今度は、バッチリ目が合ってしまった。

 「!」

思わず目を逸らす達也。だがメグのほうでは、ジッと達也の顔を見つめたまま動かさない。相変わらず頬は赤く、だが表情は真剣そのものだ。

(……メグちゃん?)

チラリと横目を向ける達也。相変わらずメグの視線は動かない。と、ゆっくり達也のほうへ体を近づける。また何か下手な誘惑でも始めるのかと思う間もなく、達也の耳元へ、静かに口元を寄せる。熱い吐息とともに、達也の耳に注ぎ込まれたその囁きを聞いた瞬間、達也の中で、何かが崩壊した……。

「……ねえお兄ちゃん。メグのオシッコするところ、また見てみたくない?……」

(続く)